食べ過ぎにつながるドーパミン
今回は脳内神経物質であるドーパミンについての解説の続きです。
前回はドーパミンがもたらす喜びの感覚として「期待報酬」と「消費報酬」があるという話をしました。
実は、この後者の消費報酬が「カウチポテト症候群(寝転がってポテトチップスを食べ続けてしまう習慣)」のような、不健康な生活習慣につながる可能性があります。
つまり、私たちがカロリーの高いものを必要以上に食べ過ぎてしまうのは、ドーパミンが原因なのです。
お菓子の喜びは脳を興奮させる
たとえば、あなたがただソファやベッドの上に横になっているだけなら、多かれ少なかれ心の中はニュートラルな気分で過ごすことができます。
状況によっては、ベッドの心地よさに包まれることでリラックスし、夢うつつになることもあるでしょう。
しかし、そのとき同時にポテトチップスを食べていたのなら、あなたの心は興奮状態になります。
この場合、ポテトチップスの刺激によって脳内のドーパミンレベルが急上昇し、あなたは消費報酬を受け取ることになります。
ドーパミンスパイクでお菓子が止まらない
ただし、以前にも解説した通り、消費報酬によって感じられる喜びの時間は非常に短いため、ポテトチップスを口に入れて噛んでいるたった数秒のあいだしか働きません。
たった数秒間と聞いて、あまりの短さに驚いたことでしょう。この時間の短さのせいで、私たちは次から次へと、また一枚また一枚と、ポテトチップスを口の中に運んでしまうのです。
血糖値が急上昇することを血糖値スパイクと言いますが、この場合はドーパミンスパイクという状態ですね。
このドーパミンスパイクにより、ポテトチップスを食べる喜びがより高くなり、お菓子にハマってしまうようになるのです。
お菓子にハマる心理的理由
問題なのはドーパミンの急上昇だけではありません。
将来にもたらされるドーパミンによる報酬は、以前のドーパミンからの報酬に依存しており、
私たちの神経系はその以前の刺激よりも多くの刺激を欲するという特性を持っています。このため、同じ刺激で繰り返し得られる快感は収穫逓増(徐々に喜びが減っていく現象)となります。
すると、あるとき突然、刺激が不十分になってしまい、ドーパミンの量が減少することになります。
私たちは幸せな状態や裕福な暮らしにもすぐに慣れてしまいますが、これも収穫逓増により、同じ刺激ではドーパミンが放出されなくなってしまうからです。
メンタルが健康な人は好きなだけ食べても太らない。これは、彼らには過剰なストレスやコンプレックス等がないため、肉体が本当に必要としている量の食事だけを自然と食べるから。つまり、メンタルが健康だと過食をしないので特に意識しなくても太らないのです。過食を基準にメンタルを管理するのもあり
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) March 19, 2022
ドーパミン中毒が起こる理由
この収穫逓増の心理のため、一度カウチポテト症候群になってしまった人たちは、たとえ空腹な状態でなくなったとしても、ポテトチップスを食べることがやめられなくなります。
ポテトチップスの刺激に慣れてしまった脳内では、最初の数口で気分がニュートラルより少し上がります。
しかし、脳がその小さなハイ状態にいったん慣れてしまうと、すぐにドーパミンのレベルが低下してニュートラルな気分に戻ります。
このニュートラルに戻る際のドーパミンの落ち込みが、もっと食べたいという欲求として現れてしまうのです。
これはまさにドラッグ中毒になった人と同じです。彼らは幸せを欲してドラッグを求めますが、その幸せは以前のようには続かず、そのためにより多くのドラッグを欲するようになります。
次回からは、ポテトチップス以外の日常に潜んでいるドーパミン中毒症状について見ていきましょう。
参考論文
Lüscher C, Ungless MA. The mechanistic classification of addictive drugs. PLoS Med. 2006 Nov;3(11):e437. doi: 10.1371/journal.pmed.0030437. PMID: 17105338; PMCID: PMC1635740.
https://doi.org/10.1371/journal.pmed.0030437
Wise RA, Robble MA. Dopamine and Addiction. Annu Rev Psychol. 2020 Jan 4;71:79-106. doi: 10.1146/annurev-psych-010418-103337. PMID: 31905114.
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Berridge KC. The debate over dopamine’s role in reward: the case for incentive salience. Psychopharmacology (Berl). 2007 Apr;191(3):391-431. doi: 10.1007/s00213-006-0578-x. Epub 2006 Oct 27. PMID: 17072591.