スマホがあるだけで集中力が大幅に低下する
たとえサイレントモードにして連絡通知を切っていても、手の届くところにスマートフォンがあると、それだけで私たちの認知能力は著しく低下してしまいます。
2017年に行われたテキサス大学オースティン校マコームズスクールオブビジネスのエイドリアン・F・ワード助教授、 クリステン・デューク、 アイェレット・ニーズィー、マールテン・W・ボス博士らは、約800人のスマートフォンユーザーを対象に実験を行いました。
この実験はスマートフォンを使用していないときでも、手の届くところにスマートフォンがあると、認知力が必要なタスクにどの程度の悪影響があるのかを調べたものなのですが、驚くべき結果が出たのです。
スマホをサイレントモードにしても無意味
実験では、被験者にコンピューターの前に座ってもらい、集中力がなければ答えることがむずかしい一連のテストを受けてもらいました。
このテストは、被験者の利用可能な認知能力(脳がデータを保持したまま処理する能力)を測定するために行われました。
テスト開始前に、被験者はスマートフォンを机の上に伏せて置くか、ポケットやカバンの中に入れるか、別の部屋に置くかをランダムに指示されました。
また、参加者は全員、スマートフォンをサイレントモードにするよう指示されました。
するとその結果、スマートフォンを別の部屋に置いた参加者は、机の上に置いた参加者たちの成績を有意に上回りました。
予想通りの結果と言えばそうですが、わざわざ別の部屋まで移動させるところまでやらないといけないのは驚きですね。
スマホをカバンに入れていても集中力がなくなる
また、ポケットやカバンに入れていた参加者も、机の上に置いた参加者たちの成績よりもわずかにですが高くなる傾向がありました。
作業をするときには、少なくとも目の前にスマホを置くよりは、ポケットやカバンなど目に見えないところにスマホを隠すほうがまだ良いようですね。
この結果は、人は目の前の作業に十分な注意と集中を払っていると感じていても、スマートフォンがあるだけで、利用可能な認知能力が低下し、認知機能が損なわれることを示唆しています。
どうやら私たちは、自分で作業にしっかりと集中できていると思い込んでいるときでも、実際には目の前やポケットの中のスマホに集中力を奪われてしまっているようです。
カバンに入れていても集中力がそがれてしまうのは恐ろしいです。この対策をして安心しているビジネスマンはけっこう多いのではないのでしょうか。
スマホは作業の邪魔になるから仕事や勉強中は電源を切っている!という対策を取っている人もいるかと思いますが、実はたとえ電源を切っていても、スマホが手の届く範囲にあるだけで認知力が低下することがわかっています。なんてこった!!!
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2021年7月14日
スマホを隠していても集中力が低下する理由
スマートフォンがより目立つような状態になるにつれて、人々の利用可能な認知能力が低下する傾向が見つかった、とワード博士は言います。
私たちは意識的にはスマートフォンのことを考えていませんが、それは無意識のうちに考えないように脳みそが指示を出しているからです。
そして、その「スマホに関することを考えないようにする」という脳内のプロセスが、限られた認知リソースを使い切ってしまい、作業のパフォーマンスや集中力が低下してしまうことにつながるのです。
というわけで、「そもそも誘惑に打ち勝とうとする意識の存在自体がダメなのだ!」という結果が出てしまいました。我慢する状況すらつくってはいけないということです。
今回の研究の結果、「誘惑はもとから断て!」という心理的アドバイスがさらに重要なものになりましたね。スマホの置き場所には注意してください。
参考論文
Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity
Adrian F. Ward, Kristen Duke, Ayelet Gneezy, and Maarten W. Bos, Journal of the Association for Consumer Research 2017 2:2, 140-154