睡眠不足と社会的時差ボケ
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン校(ミュンヘン大学)で時間生物学を研究しているティル・ロエンバーグ教授は、仕事や勉強のために目覚まし時計に頼って起床するという、自分のクロノタイプに逆らうかたちの暮らしで生まれる睡眠不足を「社会的時差ボケ」と呼んでいます。
そう、心理学的には、なんと「目覚まし時計で起床している時点で睡眠不足」なのです!!驚きですね。
睡眠時間のデータを見てみると、多くの人は仕事のある日の睡眠時間は、通常、仕事のない休日の睡眠時間よりも短くなっています。
自分の体内時計のリズムから逸脱し、社会のリズムに合わせようとするために、仕事のある平日には睡眠時間が不足し、多くの人に社会的時差ボケが起きてしまっているのです。
若者は5時間も睡眠不足
ロエンバーグ博士によると、私たちは平均して1~2時間の社会的時差ボケを蓄積していると言います。
また、特に、年配の人と行動を共にする必要のある若者の間ではこの時差ボケが5時間にもなってしまう人もいます。
前回も解説したように、思春期の若者は人生の中で一番夜更かししやすく、クロノタイプが夜型に偏っているからです。
それに対して、中高年の人はクロノタイプが朝型になっています。
このために、昼間の活動に合わせると時差ボケの差がそれだけ大きくなってしまいます。
つまり、若者は本来日中の活動が苦手なものなのです。
社会的時差ボケを治すのは難しい
博士曰く、この程度の社会的時差ボケは、毎週末にニューヨークからロンドンに飛ぶようなものだと言います(ニューヨーク・ロンドン間は5時間の時差)。
そして、時差ボケよりも社会的時差ボケを克服するのは難しいです。
ただの時差ボケであれば、数日の暮らしで修正されますが、社会的時差ボケは毎週海外旅行をしているものなので、治すのが難しいのです。
社会的時差ボケを克服するためには、仕事と勉強の時間帯を変えて、自分のクロノタイプに合わせて、より個性的な活動をしなければいけないからです。
社会的時差ボケに対抗するためにできること
しかし、職場と学校に行く時間帯は現代ではそう容易には変えられませんよね。
そこで、ロエンバーグ博士は、活動する時間帯の変更ができない場合は、「日の光をもっと戦略的に浴びて太陽光を体内に取り入れると良い」とアドバイスしています。
例えば、職場や学校の最寄り駅の一つ前で降りて、残りは徒歩で通勤通学したり、自転車で移動するように心がければ自然と日の光を多く取り込めます。
そして、日が沈んだら、パソコンの画面やスマホ、その他の電子機器から発せられるブルーライトを回避した方がいいでしょう。
明るい光を見ることで脳みその中の体内時計はリセットされるので、これを積極的に活用していくことが大切です。
というわけで、日ごろから睡眠不足の人はお試しください。
参考論文、資料
Internal Time: Chronotypes, Social Jet Lag, and Why You’re So Tired (English Edition) Illustrated 版, Kindle版 Till Roenneberg (著)
Marc Wittmann、Jenny Dinich、Martha Merrow&Till Roenneberg (2006) Social Jetlag :Misalignment of Biological and Social Time、Chronobiology International、 23: 1-2、497-509、 DOI:10.1080 / 07420520500545979
https://doi.org/10.1080/07420520500545979
Wittmann M, Paulus M, Roenneberg T. Decreased psychological well-being in late ‘chronotypes’ is mediated by smoking and alcohol consumption. Subst Use Misuse. 2010;45(1-2):15-30. doi: 10.3109/10826080903498952. PMID: 20025436.