セルフコンパッションの練習のコツと注意点
前回は「セルフコンパッションと甘え・わがままの違い」について解説してきましたが、今回は「セルフコンパッションを実践するときに注意すべきコツ」について解説していきます。
セルフコンパッションを実践することで、自分に対する見方や自分自身との関わり方を根本的に変えることができます。
研究によると、「セルフ・コンパッション・ブレーク(自分が困難に直面した状況を思い浮かべるテクニック)」という手軽な練習や、「慈悲の瞑想(愛情を感じる呼吸法)」のような儀式的な瞑想法を用いて、自分自身に優しい思いやりを持つ練習を重ねるほど、セルフコンパッションの習慣が高まることがわかっています。
セルフコンパッションを実践していくうえで、初心者にも経験者にも覚えておいていただきたいいくつかのコツがあります。
痛みを消そうとすると逆に強化されてしまう
まず最初に、セルフコンパッションは、単に快楽や心地良さを求めるための練習ではなく、善意の気持ちを持てるようになるための実践的な訓練であるということです。
セルフコンパッションでは苦しみを軽減することを基本的な目的としていますが、私たちは常に物事の成り行きをコントロールできるわけではありません。
セルフコンパッションのトレーニングで痛みを抑えたり抵抗したりして痛みを消そうとすれば、皮肉なことに、事態は悪化してしまいます。この心理は愛着スタイルに関する心理学でも話しました。
セルフコンパッションの実践では、その状況が苦痛であることを心に留めて受け入れ、不完全さも人間の経験の一部であることを忘れずに、優しさと配慮をもって自分を抱きしめていくことが大切です。
そうすることで、愛とつながりの中で自分を抱きしめることができ、痛みに耐えるために必要なサポートと心地よさを自分に与え、成長と変化のための最適な条件を整えることができます。
バックドラフトとは?
痛みをしっかりと知覚して気づいていく過程があるので、セルフコンパッションを実践すると、最初は痛みが増してしまう人もいます。
この現象をバックドラフトと呼びます。これはもともと消防用語で、燃えている家のドアを開けたときに起こる現象で、酸素が入ってきて炎が外に飛び出す現象のことを指します。
燃えている建物のドアを開けると、外から酸素が一気に入りこむことで炎が飛び出てくるのですが、これと同じようなことがセルフコンパッションでも起こります。
心のドアを開けると、愛情を一気に感じることで、昔感じた痛みも同時に感じてしまうこともあるのです。
しかし幸いなことに、私たちはマインドフルネスとセルフコンパッションのリソースを使うことで昔感じた痛みをも受け入れることができ、心は自然に癒されていきます。
バックドラフトが起きたときの対処法
セルフコンパッションを実践するには、自分自身でゆっくりと学んでいかなければなりません。
辛い感情に押しつぶされそうになったら、一時的に身を引いて、呼吸や足の裏の感覚に集中したり、お茶を飲んだり、猫を撫でたりするなど、心を落ち着かせる行動でセルフケアをすることが、最もセルフコンパッションの体験に満ちた対応となります。
こうすることで、「自分に必要なものを、その場で自分で与える」というセルフコンパッションの習慣が強化されていくことになるのです。
参考論文、資料
Neff K.D., Dahm K.A. (2015) Self-Compassion: What It Is, What It Does, and How It Relates to Mindfulness. In: Ostafin B., Robinson M., Meier B. (eds) Handbook of Mindfulness and Self-Regulation. Springer, New York, NY.
https://doi.org/10.1007/978-1-4939-2263-5_10
Kristin D. Neff, Tiffany A. Whittaker & Anke Karl (2017) Examining the Factor Structure of the Self-Compassion Scale in Four Distinct Populations: Is the Use of a Total Scale Score Justified?, Journal of Personality Assessment, 99:6, 596-607, DOI: 10.1080/00223891.2016.1269334
https://doi.org/10.1080/00223891.2016.1269334
Neff KD, Germer CK. A pilot study and randomized controlled trial of the mindful self-compassion program. J Clin Psychol. 2013 Jan;69(1):28-44. doi: 10.1002/jclp.21923. Epub 2012 Oct 15. PMID: 23070875.
https://doi.org/10.1002/jclp.21923
KRISTIN D. NEFF (2003) The Development and Validation of a Scale to Measure Self-Compassion, Self and Identity, 2:3, 223-250, DOI: 10.1080/15298860309027
https://doi.org/10.1080/15298860309027
セルフ・コンパッション―あるがままの自分を受け入れる 単行本 – 2014/11/26
クリスティーン・ネフ (著), 石村 郁夫 (翻訳), 樫村 正美 (翻訳)