行動経済学とは?
行動経済学(Behavioral Economics)とは、私たちが意思決定を行う際に、なぜ合理的な判断や行動から逸脱してしまうのかを、人間の心理を理解した上で説明する科学分野のことです。
これまでの経済学で想定されていた合理的行動選択のモデルでは、人はある行動のメリットとデメリットを比較検討し、そのうえで自分の利益になる方を選択すると考えられていましたが、それだけでは説明のつかない行動に出ることも知られていました。
この問題を解決するために、行動経済学では心理学を用いて人の行動を理解していきます。これらの知見は誤った判断を回避したり衝動を抑制することにつながります。
そのため行動経済学の理論は、人々が何を買うか、どのように家計を管理するか、健康的なライフスタイルを選択するかどうかなど、日常のほとんどの意思決定を説明するために活用することができます。
今回は行動経済学で使われることの多い心理現象や理論を簡単に解説していきます。
限定合理性とは?
従来の経済学では、人間には無限の資源と時間があり、常に合理的な判断と選択をしていると考えられてきました。
しかし、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者であり認知心理学者であるハーバート・サイモン博士(カーネギーメロン大学)は「限定合理性 (Bounded rationality)」の理論を1947年に提唱しました。
これは、人の合理性が時間的制約、認知的制約、意思決定の難易度によって制限されるということを説明した理論です。
つまり、考える時間が足りなければ慌てたり情報を吟味できませんし、疲れていたら思考が鈍くなりますし、答えを出すことが難しい問題であれば適切な選択肢を選ぶことは難しくなるという感じです。
満足化仮説とは?
これらの制約の存在により、サイモン博士は、意思決定をする人は最適解ではなく満足解を求めて行動することが多いと述べています。
これを満足化仮説(satisficing hypothesis)と言います。
満足化仮説では、「意思決定者は、ある程度の希望水準が達成されれば、それをさらに改善するための代案を模索することはしない」とされています。
つまり、人は満足できる判断をしたらそれ以上の利益を得るための努力や思考はしなくなる、という感じですね。
プロスペクト理論とは?
同じくノーベル賞を受賞した認知心理学者ダニエル・カーネマン博士とエイモス・トヴェルスキー博士が開発したプロスペクト理論でも、非合理的な意思決定が行われることを示しています。
プロスペクト理論には、リスクの高い状況で経験則(ヒューリスティック)や精神的な近道を適用する「編集段階」と、損失回避(失うことを嫌う心理)や参照依存(目にした情報を始点に考える心理)などの心理的原則を用いてリスクの高い選択肢を分析する「評価段階」の2つの段階があります。
つまり、私たちには、頭に浮かびやすいものを選び、得ることよりも失うことを回避するという偏った判断基準があるのです。
情報を選ぶ段階でも決断を下す段階でも思い込みによる心理的な影響を受けるのですね。
ナッジ理論とは?
アメリカの経済学者でノーベル賞受賞者のリチャード・セイラー博士は、個人や組織がフレーミングやヒューリスティックを活用することで、人々の選択にどのような影響を与えることができるかを探るために、ナッジ理論を開発しました。
ナッジとは、特定の行動を促すために環境や状況を少し変えることです。
たとえば、運動を続けやすくなるように、思い立ったらすぐにランニングに出かけられるよう必要な道具の準備を常にしておく、といったことです。
人の意志は弱いので、いかに面倒臭い行程を省くかが、新しい習慣を身に着けるためのコツです。やりたいことができていないのは、心の弱さのせいではなく、””ちゃんと楽をしていないから””なのです。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2021年3月6日
経済学と行動経済学の違いとは?
これまで使われてきた経済学では、人々が、入手可能なすべての情報を持ち、選択肢について合理的に考える時間があるときに、どのように意思決定を行うかを説明します。
しかし、現実の世界では、期限や不確実性、リスクによって選択肢が制限されることが多く、文脈からは非合理的に思える行動をとってしまうことがあります。
行動経済学では、このような制約を考慮したうえで、私たちがどのようにしてより良い意思決定を行うことができるかについての説明をします。
参考論文、参考文献
実践 行動経済学 Kindle版
リチャード・セイラー (著), キャス・サンスティーン (著), 遠藤 真美 (翻訳)
ファスト&スロー (上) Kindle版
ダニエル カーネマン (著), 村井 章子 (著, 翻訳)
セイラー教授の行動経済学入門 Kindle版
リチャード・セイラー (著), 篠原勝 (翻訳)