リターントリップ効果とは?
普段は行かない場所へ遠出をしたとき、「行きの道よりも帰りの道は短く」感じたことはありますか?
まったく同じ時間・同じ距離を移動しているはずのに、なぜか帰り道の方が早い気がするという感覚です。今回はこの心理について解説していきます。
この「帰り道は早く感じる」という心理現象は、専門的にはリターントリップ効果(復路効果)と呼ばれています。
研究によると、行きと比べると帰りの道は、だいたい20%ほど短く感じてしまうようです。けっこう短くなりますね。
他人が移動する映像を見ても起こる
2011年のティルブルフ大学(オランダ)社会心理学のニールス・ファン・デ・ベン、アイントホーフェン工科大学(オランダ)のレオン・ファン・レイス・ウェイク、エリザベスタウン大学(アメリカ)のマイケル・ロイの実験でも支持する結果が出ています。
これはバス旅行、自転車旅行、ほかの人の旅行動画を見るといった3つの研究、合計301人を対象におこなわれた実験で、いずれの場合でもリターントリップ効果は確認されました。
自分ではなく他人が旅行に出かける映像を見るだけでも、こうした効果があるのは不思議で面白いですね。つまり、映画を見ていても起こるのです笑。
リターントリップ効果が起こるのはなぜ?
このような心理現象が起こる理由として、研究者は次のようなもの挙げています。
- 帰り道の方が親しみがあるから
- 人間の時間の予測が甘いから
理由その1:帰り道は一度見たことがあるから
旅行の行きで通った道を、帰りでは再び通ることになるので、最初に通った時と違って帰り道には馴染みがあります。
「あ、ここ行く時に通ったなぁ」という感じですね。このために帰りは短く感じるのだろうということです。
よく見知った道ほど短く感じるのは、通勤や通学の時の感覚と同じです。私たちは見慣れた道ほど時間の見積もりが甘くなるのです。
親しみやすさは関係なかった
しかし、実験で別の道を通って帰宅した人は、かかった時間が同じだったのにもかかわらず、帰り道の方が短いと感じました。
親しみやすさ、馴染み深さがリターントリップ効果を引き起こしているわけではないようです。
新しい習慣ほど時間がかかると感じる心理があるので多少の影響はあるのかと思いますが、これが決定的な要因ではないのですね。
理由その2:時間の予測が甘いから
私たちは初めての作業や初めて行く道など、初めてのことに関しては、それを達成するまでにかかる時間を実際よりも短く見積もる傾向があります。
そのため、旅行でも行きの道を短く予測するのですが、実際にはそれよりも長いために感覚的により長く感じてしまうようになります。
しかし、帰宅するときには目的地に着くまでにどれくらい時間がかかったのかを経験的に理解しているため、帰り道は短く感じるのではないか?という仮説です。
リターントリップ効果が起こる心理的理由
そこでこの仮説を検証するために実験してみたところ、「行きの道を短く見積もっていた人ほど帰り道を短く感じていた!」ということがわかりました。
また、行きの時間を長く見積もるように操作をされた人たちは、リターントリップ効果の影響がなくなっていました。
というわけで、最初の時間の見積もりが甘いために旅行の行きの道は長く感じ、その心理的コントラストで帰りの道は実際よりも短く感じるようになるのです。
通勤や通学の道でリターントリップ効果が起きないのは、その道を何度も通ることで私たちの時間の見積もりが正確になるからなのです。
リターントリップ効果は日常生活でも起きる
研究者は、このリターントリップ効果が旅行以外のことにも起きる可能性を示唆しています。
例えば、映画は1回目に見たよりも2回目に見たときの方が短く感じる、といった感じです。デートとかでも起きそうですね。
この研究の教訓は、「初めてのことは簡単ですぐに終わる!と甘く見積もりがちになるので、最初の感覚よりも長めに見積もろう!」ということですね。
これで「思っていたよりも辛い!」といった経験をせずに済むようになります。
参考論文
van de Ven N, van Rijswijk L, Roy MM. The return trip effect: why the return trip often seems to take less time. Psychon Bull Rev. 2011 Oct;18(5):827-32. doi: 10.3758/s13423-011-0150-5. PMID: 21861201; PMCID: PMC3179583.