医薬品としての幻覚剤
ジョンズ・ホプキンス医科大学がおこなった2022年の研究で、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)、アヤワスカ、シロシビン、NN-ジメチルアミン(DMT)などのサイケデリックドラッグを投与すると、死に対する恐怖心が著しく低下することが明らかになっています。
サイケデリックドラッグは日本で言うところの幻覚剤です。ビートルズなどの70年代のミュージシャンたちが使用していたことで有名ですね。
幻覚を見るようになったことで神秘的な体験を獲得し、それによって自分が置かれた状況やこれからの人生に対する考え方を良いほうに変えることができたのです。
死の恐怖が著しく下がる
面白いことに、この変化は、臨死体験をした人たちに見られる大きな変化と同じ現象でもあります。
有名な話ですが、臨死体験をした人たちでは死への恐怖がなくなることがあります。これと同じことが幻覚剤を使用した患者にもあらわれたのです。
また、臨死体験者は幸福感を覚えたり、生と死・人生に対する態度が変化することもあります。
この研究は3192名を対象にしたもので、幻覚剤を投与された被験者たちの90%には心理的にポジティブな変化がありました。また、意識を失ったり心肺停止状態になることも少なくなりました。
特に最も大きな変化は、サイケデリックドラッグが死に対する恐怖を著しく低下させたことでしょう。
これにより被験者は自らの死を受け入れる準備ができ、死を肯定的に捉えることができるようになりました。
ドラッグで自殺率が低下
サイケデリックドラッグは、すでに末期病患者、特に人生の終わりの時期が近づいて、実存的な苦悩や苦痛を経験する人々に対してポジティブな心理効果を与えることができます。
がん患者は一般人の2倍の自殺リスクを持つ傾向があるのですが、サイケデリックドラッグの適切な投与と医学的な管理体制により、患者の絶望感は受容と感謝の感情に変わり、自殺のリスクが減少します。
また、ドラッグ別で医療効果を比較してみると、アヤワスカとDMTのグループは、シロシビンとLSDのグループよりも強く、よりポジティブな体験の永続的結果を報告する傾向がありました。
医療用ドラッグの未来
というわけで、もしかするとドラッグ(特に幻覚剤)が病気と死が近づくことによる苦悩を和らげる救世主になる可能性があるようです。
医療用大麻という言葉が有名ですが、近い将来、医療用LSD、医療用ドラッグという言葉が日本でも流行るかもしれませんね。
参考論文
Sweeney MM, Nayak S, Hurwitz ES, Mitchell LN, Swift TC, Griffiths RR. Comparison of psychedelic and near-death or other non-ordinary experiences in changing attitudes about death and dying. PLoS One. 2022 Aug 24;17(8):e0271926. doi: 10.1371/journal.pone.0271926. PMID: 36001643; PMCID: PMC9401141.