【政治心理】対立しない!敵に対する説得力が増す超党派の心理学

アサーティブネス・自己表現
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敵対者の話を聞くことは役立つのか

 

意見が対立する人々にこちらから歩み寄り、彼らの考えを理解しようとすることは、その努力に見合うだけの価値がないように感じられるかもしれません。

 

そのために多くの人が意見の対立する相手を見下してしまい、真摯に向き合って話を聞こうとはしません。

 

これは特に、対立する政治環境では、反対派に塩や醤油のような調味料を渡すことさえ、自分たちの立場を裏切るものとして受け取られかねないからです。

 

同じ保守派の知り合いがリベラル派の政党の敵対者と親しげに会話をしていたら、多くの人は裏切りを感じてしまうでしょうし、リベラル寄りの考えを持ったのだとも思うでしょう。

 

しかし、新しい心理学の研究によると、党派を超えた共感は、私たちの持つ信念を軟化させるどころか、むしろ政治的主張の説得力を高める可能性があることが示唆されています。

 

さらに、この心理は政治的に最も偏った思想を持つ人たち、いわゆる極左・極右の人たちにも当てはまります。

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超党派的な態度は説得効果があるのか

 

スタンフォード大学心理学部のルイーザ・A ・サントス、ジャミル・ ザキ、社会学部のヤン・G・フェルケル、ロブ ・ウィラー博士らの2022年の研究では、超党派の人たちがお互いに示す共感の力が実際に政治的な効力を持つのかどうかを調べました。

 

世の中には自分が属する政党や信条に関係なく、社会を良くしようと協力し合う超党派の人たちがいますが、このような方法は本当に他者(有権者や他の政治家)を説得することに役立つのか?について調べられたのですね。

 

一見すると、超党派の議員は対立者と仲良くすることで、仲間内から裏切者呼ばわりされて権力や信用を失いかねないように思えますからね。

 

この研究では、4つのアメリカでの調査を通して、アメリカの二大政党である民主・共和両党の参加者4,748人を対象に実験を行いました。

 

すると、違いを超えて自分のものとは異なる意見に共感することは、人々の視点をより理解するのに役立つだけでなく、自分自身の信念をより説得力の強いものに変える力もあることがわかったのです。

 

超党派プライミング効果

 

また、党派を超えた共感を重視するよう奨励された人は、超党派の協力を支持する傾向が強く、政治的問題の反対側にいる人に対する嫌悪感・反感・道徳的優越感などを少なく報告する傾向が弱くなりました。

 

党派を超えた共感は個人の持つ固定的な特性ではなく、最も政治的に党派的な人であっても、反対者の立場に歩み寄って考えられる姿勢を持っているとも報告されています。

 

むしろそうした人たちにこそ最も大きなポジティブな効用をもたらす可能性が示唆されています。

 

これは言うなれば、超党派プライミング効果ですかね。

 

信念の偏りが強いと効果が大きくなる

 

この反応の強さは人々の間で同じではありませんでした。

 

政治的信条が穏やかな参加者では効果が比較的小さかったが、厳格な民主党員や共和党員の参加者では、集団外のメンバーに対する敵意や道徳的優越感の減少が有意に大きくなったのです。

 

つまり、右や左により強く偏っている人ほど、超党派的な姿勢によるポジティブな影響力が大きくなったのです。

 

これは意外ですね!どちらかと言うとそういう人たちのほうが効果がないように思えますが、実際には逆なのです。

 

対立者を説得できるのか

 

最後に、超党派的な共感力を高めたあとで、銃の規制法に関する信念を変えさせる目的で意見の対立する党の人々にあててメッセージを書いてもらい、共感の力により説得効果がどう変わるのか?を検証しました。

 

さて実際に対立する政党の参加者にメッセージを読んでもらうと、高共感者のメッセージは低共感者よりも好感が持てて説得力があると評価され、高共感者の政党に対する敵意も少なくなることがわかりました。

 

さらに、メッセージを読んだ後では、自分の考え方が和らぐ可能性が高くなりました。

 

つまり、対立者に共感を示すことで敵意を減らすことに成功した上に説得効果も増したのです。これはすごい!

 

説得力が増した心理的理由

 

この実験では、共感をプライミングされた参加者は、党派を超えて共感を示すために融和的な言葉を使う傾向がほぼ2倍になることがわかりました。

 

これには、「We all want(私たちが望むものは)」や「I agree(~には賛成する)」などの言葉を使って共通点を見つけようとすることや、「I understand that(~は理解できる)」のような対立者の持つ信念を認めるような視点を持つ言葉を使うことが含まれました。

 

また、犯罪や暴力といった対立する概念について直接議論するよりも、安全といった共通の目標や、合衆国憲法といった制度に焦点を当てる傾向が強くなりました。

 

つまり、お互いの違いではなく、お互いの共通の信念や目的について語ることが多くなったのです。

 

共感することの効用を信じることは、集団間の感情を改善するだけでなく、より大きな共通の基盤を作ることに役立つのです。

 

敵意を減らして重要な課題で協力しあう

 

超党派的共感の有用性を信じることは、人々が党派的敵意を減らし、重要な問題に関して合意を形成するという共通の目標を達成するのに役立ちます。

 

このように、党派を超えた共感は、人々の心をつなぐだけでなく、人々の心を変えるための貴重なリソースとなりえます。

 

というわけで、あなたに説得したい相手がいるのなら対立ではなく融和的な姿勢を持って、共通の目標に意識を当てつつ、意見を主張してみてください。

 

そのほうが説得力が増す上に、敵対によるリスクやストレスも少なくなること間違いないでしょう。

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参考論文

 

Santos, L. A., Voelkel, J. G., Willer, R., & Zaki, J. (2022). Belief in the utility of cross-partisan empathy reduces partisan animosity and facilitates political persuasion. Psychological Science, 33(9), 1557–1573. 

https://doi.org/10.1177/09567976221098594

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