ドーパミンと薬物中毒
今回はやる気や喜びといった感情にかかわる脳内神経物質であるドーパミンについての解説の続きです。
脳の快楽システムを乗っ取るほどの強力な消費報酬である薬物となると、ドーパミンについての話はより悪質なものとなります。
例えば、アメリカで乱用されているオピオイド(麻薬性鎮痛薬)は抑制性ニューロンと極めて強い結合を形成し、通常、脳がドーパミンの生産を停止するよう指示する発火をブロックする効果を持ちます。
通常ドーパミンは、目標達成のために必要な量の報酬を与えるよう、細かく調整されているのですが、オピオイドを使用することでこれが際限なく放出されてしまいます。
つまり、オピオイドを使用すると、ドーパミンが放出され放題になってしまうのです。
ドーパミンの出し過ぎが心に悪影響となる理由
一見すると、さらに良い気分にさせるからいいのではないか?と思うかもしれません。
しかし、こうした薬物が問題となるのは、薬物の使用が中毒を引き起こし、私たちのドーパミンの供給源を「薬物の使用」という1つの破壊的行動にのみ絞り込み、人生におけるほかのあらゆる喜びを享受する意欲を失わせてしまうからです。
つまり、薬物によって快楽中枢が支配されてしまうと、薬物以外の楽しみが奪われてしまうのです。
これでは薬物のために人生をめちゃくちゃにしてしまってもしょうがありません。薬物に依存している人たちには、それ以外の出来事では何にも感じられないのですから。
行動で生まれるドーパミン報酬
私たちの脳がオピオイドによる大量のドーパミンスパイクに対応できるように進化していないのと同様に、遺伝子は今日の世界に存在する豊富な快楽に対しても適応できてはいません。
私たちは、果物などの自然な糖分を含む食品を食べると、そこから得られるエネルギー量が多いため、快感のスドーパミンパイクを受け取るように進化してきました。
しかし、現代の加工食品であるキャンディーやアイスクリームに含まれる糖分(つまり、ドーパミンが与える報酬)には、果物は太刀打ちできません。
もちろん、不健康なお菓子は私たちを一時的には快感にさせてくれます。
私たちの脳は、カロリーの高い食品に対するインセンティブを最大化するように設計されているからです。
お菓子のように働くSNSとゲーム
同様に、長期的な目標に大量の労力を注ぐよりも、座って携帯電話でゲームをしたり、ソーシャルメディアを閲覧したりする方が、はるかに満足度が高いのです。
ゲーム内で自分の点数が上がっていくのを見ると、何か意味のあることを達成しているように感じられます。
あるいは、SNSに投稿したものに多くの人からの「いいね!」がつくと、直接的に人から認められたような気がして嬉しく感じます。
仕事や勉強よりも娯楽が楽しい理由
このように、現代ではよりたくさんのドーパミンが簡単に得られます。
それなのに、なぜ大きな苦労をしてまで、わざわざ後で手に入れなければならないのだろうか?私たちの脳みそはこのように考えます。
勉強や技術習得などでもドーパミン報酬は獲得できますが、そのためにはたくさんの努力が必要で、さらには快楽が得られるのは行動してからずっと後の話なのです。
こうなれば、すぐに手に入ってより大きな喜びを得られる行動を選んでしまうのもある意味では仕方ありません。
だから私たちはお菓子やSNSといったあまり意味のない娯楽を、勉強や仕事といった大きな意味のある作業よりも優先させたい!という気持ちが働いてしまうのです。
そこで必要になってくるのがドーパミンレベルのリセットです。
ドーパミン・リセット
私たちが人生で最も大きなドーパミンの源を追い求めるように進化してきたことは、決して悪いことではありません。
なぜなら私たちがこのように進化してきたのは、それが適応的だからです。
しかし、健康に悪いものから、不自然に大量のドーパミンが放出されるのは、適応的ではありません。
これを防ぐためにドーパミンのリセットを実践することが大切です。
例えば、1ヶ月間砂糖を一切摂らなかった場合、果物を食べると突然、消費報酬が大きく上昇します。
これは報酬を受け取らなかったことで脳内のドーパミンレベルが一度リセットされるからです。
しかし逆に、お菓子ばかり食べていたら、果物はほとんど甘くないと感じてしまいます。
そして、そうなれば人生のなかにあるほかの些細な喜びも、退屈に感じられるようになります。
メンタルが病んでくると我慢ができなくなってきます。たとえば、お菓子を食べすぎる、お酒を飲みすぎる、買い物をし過ぎる、話しているとカッとなってすぐに人と喧嘩してしまう、など。こうした行動傾向が出てきたら注意が必要です。そのときは生活習慣を見直しつつ、ゆっくりと休息をとりましょう。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) September 13, 2022
遊びにも休憩が必要
ドーパミンは私たちに短期的な快楽を渇望させ続けますが、その指示に従う必要はありません。
短期的な楽しみをなくす、あるいは定期的にドーパミン休憩をとることで、長期的な目標の追求により多くの報酬を感じることができるようになるのです。
つまり、幸せになりたいのなら報酬を受け取るまでの時間を長くしよう!ということです。好きなことや遊びにも休憩が必要なのですね。
この心理を「満足遅延(Delayed gratification)」と言います。幸福度を高めたい人はこのドーパミンリセットをぜひ定期的に実践してみてください。
参考論文
Siciliano CA, Jones SR. Cocaine Potency at the Dopamine Transporter Tracks Discrete Motivational States During Cocaine Self-Administration. Neuropsychopharmacology. 2017 Aug;42(9):1893-1904. doi: 10.1038/npp.2017.24. Epub 2017 Jan 31. PMID: 28139678; PMCID: PMC5520781.
https://doi.org/10.1038/npp.2017.24
Anokhin AP, Golosheykin S, Grant JD, Heath AC. Heritability of delay discounting in adolescence: a longitudinal twin study. Behav Genet. 2011 Mar;41(2):175-83. doi: 10.1007/s10519-010-9384-7. Epub 2010 Aug 11. PMID: 20700643; PMCID: PMC3036802.
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Romer D, Duckworth AL, Sznitman S, Park S. Can adolescents learn self-control? Delay of gratification in the development of control over risk taking. Prev Sci. 2010 Sep;11(3):319-30. doi: 10.1007/s11121-010-0171-8. PMID: 20306298; PMCID: PMC2964271.