通勤の心理学まとめ
今回も通勤のストレスと心理について解説していきます。
しかし、今回はただ通勤のストレスの話というだけではなく、幸せになるために何が必要なのか?といったことまで解説しますので、通勤時間の心理学にそこまで興味がない人もぜひ最後まで読んでみてください。
これまで解説してきました通勤時間が与える心理的な悪影響について振り返りますと、通勤時間が長いせいで夫婦仲が悪くなったり、休日が楽しくなくなったり、不安のレベルが上がったり、運動不足で肥満になったり、健康的な食事をしなくなったり、仕事の満足度が下がったり、睡眠時間が大幅に減ってしまう!ということがわかっています。
一度に全部並べてみますと、とにかく通勤が心身の健康に悪いということがよくわかります。
さらに今回の研究では、「通勤時間が長い人は幸福度が低い!」という結果が出ています。踏んだり蹴ったりですね。。
↓これまでの通勤に関する心理学
通勤ストレスは年収の40%にあたる!!
2004年にバーゼル大学のアロイス・シュトゥッツァー博士、経済界の大御所でチューリッヒ大学のブルーノ・S・フレイ博士らが、ベルリンのドイツ経済研究所(DIW)で1985~2003年にかけて行われた幸福度調査のデータをもとに調べた研究によると、通勤時間が長い人は主観的な幸福度が低い!ということが分かっています。
さらに、この研究によると、こうした通勤のストレスを埋め合わせるためには、「代わりに今よりも年収が40%も上がらないといけない!」という結論が出ています。
年収が300万の人なら420万くらいにならないと割に合わないストレスを抱えているということになるのですね。
こうして数字にしてみると、私たちはかなり割に合わないストレスを通勤によって負担していることがわかります。
通勤時間のパラドックス
「そんなにストレスが溜まるのなら仕事を変えればいい!」と思うはずなのですが、私たちの心理はそうはなりません。
本来なら私たちは、通勤によるストレスよりも報酬が大きいときにその職場や仕事を選ぶものだと考えますが、実際には報酬が低かったり幸せにつながらなかったとしても、条件の悪い仕事を選んでしまうのです。
経済学ではこれを「通勤時間のパラドックス(通勤のパラドックス)」と呼んでいます。
「私たちが苦痛を受け入れるのはそれなりの報酬があるからだ!」というのは、ただの思い込みなのです。本当は自分のことすらもよくわかっていないのですね。
通勤時間のパラドックスが起こる心理的な理由
なぜこのような思い込みが起きてしまうのかというと、心理的なバイアスが働くからです。
私たちは通常、通勤によって得られるものの価値を過大評価しています。
つまり、長時間の通勤に耐えるのは、より多くのお金、より多くのモノ、より多くの地位や名声、広い家が得られると思い込んでいるからなのです。
しかし、その一方で、自分たちが代わりに失っているものの価値については過小評価をしています。
例えば、家族や友達などの社会的つながり、趣味に費やす時間とエネルギー、そして健康です。
このせいで本当に価値のあるものを犠牲にして、長い通勤時間を甘んじて受け入れてしまうのです。
通勤時間のパラドックスというよりも、「不幸のパラドックス」といった感じですね。
通勤は報われることのないストレス!?
博士曰く、「通勤は報われないストレス」だそうです。合理的に考えたら、長時間の通勤というのは無駄以外の何物でもないのです。
博士は短時間の通勤でさえも報われないと言っています。たった15分徒歩で職場に向かうだけでも、そのストレスを埋めるために、ダンプカーいっぱいのお金が必要だというのです。
うーん、この結論を聞くと虚しいったらありませんね。毎日当たり前のように通勤・通学している私たちはいったい、、、。
お金よりも、広い部屋よりも、大事なもの
博士は最後にもう一つ面白いアドバイスをしています。
「部屋が狭くなるから」という理由で、趣味のギターを部屋に置かないのは間違っています。
広い部屋を持つことよりも楽しい趣味に費やす時間を持つことの方が、私たちにとって大きな意味があるのです。
とのことで、もしも新しい趣味を持とうとしているのに「部屋が混雑するから!」ですとか「月謝がもったいない!」といった理由で躊躇してあきらめている場合には、そのような心配はせずにすぐさま新しい趣味を始めた方がいいでしょう。
参考論文
Stutzer, A. and Frey, B.S. (2008), Stress that Doesn’t Pay: The Commuting Paradox*. Scandinavian Journal of Economics, 110: 339-366.