「利用される人」と「踏み台にする人」の境界線:心理学で解き明かす「社会的クライマー」の行動特性
職場で、友人関係で、あるいは恋愛において、「この人は本当に自分と向き合ってくれているのだろうか?」と感じさせる相手に出会うことは少なくありません。例えば、上司には愛想が良いのに部下には冷淡な人、人気のある人にだけ積極的に接触しようとする人、あるいは経済的なメリットがなくなると急に態度を変える恋人などです。
こうした人々の行動の裏には、自身の「ステータス」を高めることを何よりも優先し、周囲の人間をそのための“手段”として捉える心理が隠されています。心理学の世界では、このような傾向を持つ人々を「社会的クライマー」と呼ぶことがあります。
本記事では、フランチェスコ・リゴーリとマルコ・ミロッリ(ロンドン市立大学およびローマ国立研究所)博士らによる2024年の共同研究(参照論文リンク)に基づき、この「社会的クライマー」の特徴、彼らを識別するための尺度、そして彼らから自分を守るためのヒントを探ります。」
ステータスをめぐる3つの心理的傾向
研究チームは、人がステータス(地位や社会的評価)に対して抱く心理的傾向を、以下の3つの主要な要素に分類しています。
- ステータス重要度:
自分の地位や社会的な評価をどれだけ重く見ているかを示すものです。この傾向が強い人は、「自分が成功者と見られること」に強いこだわりを持ち、誰と付き合い、どのように振る舞うかを非常に意識します。彼らにとって、「成功者と関わること」そのものに価値があります。 - ステータス不安:
自分のステータスが脅かされたと感じたときに生じる不安の度合いを指します。このタイプの人は、他人よりも下に見られること、あるいは地位が落ちることに強い恐怖を感じます。そのため、親しい誰かが自分よりも大きな成功を収めると、喜びよりも先に焦りや劣等感を抱く傾向があります。 - ステータス追求:
より高い地位を得るために積極的に行動する傾向のことです。社会的クライマーはこの要素が特に強く現れ、目的達成のためには手段を選ばず、自己を誇大に見せたり、人間関係を利用したりすることで、社会的な評価を上げようとします。
つまり、社会的クライマーは、「地位を上げるためなら手段を選ばない」という行動特性と、「常に周囲の目を気にし、自分の見え方に神経を尖らせる」という心理特性を併せ持っていると言えます。
「社会的クライマー傾向」セルフチェックリスト
研究で用いられた指標に基づき、あなたが(あるいはあなたの周囲の誰かが)どの程度社会的クライマー傾向を持っているかを測るためのチェックリストを紹介します。
以下の10項目について、1(まったく当てはまらない)〜5(とても当てはまる)で回答してください。
- 私は社会的地位をとても気にする。
- 私は自分の社会的地位には無関心だ。(逆得点)
- 自分の社会的地位が脅かされると強いストレスを感じる。
- 自分の社会的地位が向上すると、とても嬉しい。
- 私は社会的地位をあまり気にしない。(逆得点)
- 私は自分の社会的地位を向上または維持するために努力する。
- 社会的地位は、私にとって重要な関心事の1つだ。
- 私は自分の社会的地位を向上させるために特別な努力をしない。(逆得点)
- 社会的地位に関することはどうでもいい。(逆得点)
- 社会的地位について深く考えることはない。(逆得点)
スコアの換算方法
逆得点項目(2、5、8、9、10)については、スコアを逆に換算してください。(例:1点→5点、2点→4点、3点→3点、4点→2点、5点→1点)
その後、すべての項目の点数を合計してください。
合計スコアが高いほど、ステータスを重視し、積極的に追求する傾向が強いと判断されます。研究によれば、合計が35点から50点の範囲にある場合は、かなり社会的クライマー傾向が高いと言えるでしょう。
高スコア者が示す4つの行動パターン
このチェックリストで高い得点を示した人々は、現実の生活において、以下のような目に見える行動をとる傾向にあることが明らかになっています。
- 目立つ消費行動を好む
彼らは、高級ブランド品を見せびらかしたり、SNSで華やかなライフスタイルを頻繁にアピールしたりする傾向が強いです。これは、自分の社会的評価を高めるための「投資」と見なされています。 - SNSの更新に執着する
「いいね」の数やフォロワー数を常に気にし、他人からの承認や社会的評価を獲得するために、精力的にSNSを更新し続けます。 - 付き合う相手を戦略的に選ぶ
自分より地位が高い、あるいは自分に利益をもたらす「上」の人々と親しくなろうと積極的です。逆に、自分より「下」と見なした人々に対しては冷淡になったり、関係をあっさり切ったりすることがあります。 - 人間関係を道具として利用する
「この人と繋がっておけば得をする」と判断すると、その人間関係をあくまで自分の目標達成の道具として捉え、積極的に近づいてきます。その関係が不要になると、急に態度が冷たくなるのが特徴です。
「社会的クライマー」から身を守るために
ステータスを追求すること自体は、現代社会においてキャリアや成功を目指す上で自然なことです。しかし、その傾向があまりにも強すぎる社会的クライマーは、あなたの善意やリソースを一方的に利用しようとする危険性を孕んでいます。
身近に「もしかして利用されている?」と感じさせる人がいる場合は、上記のチェックリストの内容を当てはめて観察してみることをお勧めします。
彼らが目立つ消費やSNSでの自己アピールに執着していないか、そして「肩書き」や「地位」で人を選んでいないかを注意深く観察することで、その人の本質を見抜く手がかりが得られるはずです。
もし相手が強い社会的クライマー傾向を持っていると判断した場合は、意図的に距離を置き、大切な時間やエネルギーを一方的に利用されないよう、関係性を管理することが賢明な自己防衛策となるでしょう。
参考論文
Dinić, B. M., Milanović, A., & Cvetković, J. (2024). The dark side of status striving: Development and validation of the Status Striving Scale (SSS). British Journal of Psychology, 115(2), 346–369. https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjop.12716










