「条件は完璧だけど愛せない相手」と結婚できる?最新の進化心理学が導き出した答え
「顔も良くて性格もいい、経済力も抜群。でも、どうしても好きになれない……」
そんな相手と出会ったとき、あなたなら結婚を選びますか?
「愛こそすべて」と考える人もいれば、「生活のためには妥協も必要」と現実的に考える人もいるでしょう。実は、この究極の選択に対する答えが、私たち人類の生き残りと深く関わっていることが最新の研究で明らかになりました。
2024年、ポーランドのヴロツワフ大学(University of Wrocław)のマルタ・コヴァル(Marta Kowal)博士やピョートル・ソロコフスキ(Piotr Sorokowski)博士らを中心とした国際研究チームは、世界90カ国、86,310人という大規模な調査を行いました。
この研究「Love as a Commitment Device(コミットメント装置としての愛)」は、科学誌『Human Nature』に掲載され、私たちがなぜ「愛」をこれほどまでに重視するのかについて、驚くべき視点を与えてくれています。
コミットメント(Commitment)とは
心理学では、特定の相手との関係を維持しようとする「決意」や「献身」を指します。「この人と一生添い遂げる」という強い約束の心理状態のことです。
愛は生存のための「強力な接着剤」だった:コミットメント装置説
進化心理学の視点では、ロマンチックな愛は単なる感情の爆発ではありません。
それは、パートナーとの絆を長期的に維持するための「コミットメント装置」として進化したと考えられています。
例えば、大昔の人間を想像してみてください。
人間の子育てには、他の動物に比べて非常に長い時間がかかります。
もし親が「飽きたから」とすぐに別の相手へと目移りしてしまえば、残された子供が生き残る確率はグッと下がってしまいます。
そこで、「愛」という強力な感情が脳に組み込まれました。
愛があるからこそ、私たちはパートナーを特定の相手に縛り付け、共同で食べ物を集め、子供を守り続けることができるのです。
今回の調査では、参加者に「理想的な資質をすべて備えているが、愛していない相手と結婚するか?」という質問をし、0から100の数値で回答してもらいました。
その結果、世界中のほとんどの人が、愛のない長期的な関係に対して「NO」を突きつけることが分かりました。
愛は、私たちが人生を共にする相手を選ぶ際の、世界共通の「必須条件」となっているのです。
進化心理学(Evolutionary Psychology)とは
人間の心が、祖先が生き残り、子供を残すためにどのように進化してきたかを研究する学問です。恋愛や協力関係など、現代の私たちの行動も「生き残るための作戦」に基づいていると考えます。
「愛」をより切実に必要とするのは誰か?格差と環境の影響
この研究の最も興味深い発見は、「愛の重要性は、その人が置かれた社会的・経済的な状況によって変わる」という点です。
研究チームは、関係が壊れたときに大きな損失を被る可能性が高い人ほど、愛を重視すると予想しました。データはこの予測を明確に支持しています。
1. お金や立場が不安定なときほど「愛」が重要になる
経済的に不安定な状況にある人や、社会的な立場が低い人ほど、結婚における愛をより重視する傾向がありました。
リソース(お金や食べ物など)が限られている過酷な環境では、パートナーが自分を裏切らず、献身的に支えてくれるという確信(=愛)が、生き残るために不可欠なセーフティネットになるからです。
2. 性別と子供の数による違い
統計的に、女性や多くの子供を持つ親ほど、愛のない結婚に対して否定的な反応を示しました。
これは、子供を育てる負担が大きい立場にあるほど、相手の「浮気」や「離別」を防ぐための心理的保証である「愛」を切望することを意味しています。
3. 近代化が進んだ国での変化
国レベルでの比較では、人間開発指数(HDI)が高い国ほど、ロマンチックな愛を高く評価することが分かりました。
教育水準が高く、長寿で豊かな社会では、単なる「生存」への不安が減ります。
その分、パートナーシップの質や、個人の幸福度としての「愛」の価値がより高まるようです。
人間開発指数(HDI:Human Development Index)とは
国の発展度を測る指標です。「どれくらい長生きできるか(健康)」「どれくらい教育を受けられるか(知識)」「どれくらい収入があるか(生活水準)」の3つから算出されます。
なぜ「愛」は文化を超えて普遍的なのか?
研究では、近代化によって愛の捉え方に多少の違いはあれど、「愛が重要である」という本質は90カ国すべてで共通していました。
これは、愛が単なる流行ではなく、人類が種として生き残るために脳に刻み込んだプログラムであることを示唆しています。
もし愛という感情がなければ、私たちはより「条件」だけで相手を選び、少しでも条件が良い人が現れたら簡単に別れを選んでいたでしょう。
しかし、愛があるからこそ、困難な状況でも相手の手を離さず、リソースを分かち合い、次世代を守り抜くことができます。
愛は、私たちが不安定な世界で生きていくための、最も洗練された「リスク管理システム」なのです。
読者へのアドバイス:条件よりも「愛」を優先するのは正しい
もしあなたが今、「相手の条件はいいけれど、好きになれない」と悩んでいるなら、その直感は科学的に見て非常に正しいものです。
私たちの本能は、「愛というコミットメントが欠けた関係は、将来的に崩壊するリスクが高い」ことを察知しているのです。
特にお金や将来の不安があるときほど、私たちは目に見える「条件」にすがりたくなります。
しかし、この研究が示す通り、困難な時期こそ「この人のために頑張れる」という強い愛情が、二人の生活を支える最強の盾になります。
「年収」や「外見」をチェックリストにする前に、自分の心がその相手に「コミットしたい」と叫んでいるか、耳を傾けてみてください。
記事のまとめ
世界90カ国、8万人以上のデータは、愛が決して甘い幻想ではなく、人類が生き残るために獲得した究極の約束のカタチであることを証明しました。
愛は、私たちを孤独から守り、見返りを求めない協力を生み出し、予測不可能な人生を共に歩むための勇気を与えてくれます。
「愛なんて役に立たない」と冷笑する必要はありません。
あなたが誰かを深く愛し、愛されたいと願うのは、あなたが人間として正しく生きようとしている証拠です。
条件に惑わされすぎず、心からの絆を大切にすることが、結果として最も安定した幸福への近道になるのです。
参考論文
Kowal, M., Sorokowski, P., et al. (2024). Love as a Commitment Device: Evidence from a Cross-Cultural Study Across 90 Countries. Human Nature.











