高所恐怖症治療に新たな光!最新の研究が示すVRと認知行動療法の有効性
高い場所に行くと、手汗や動悸が止まらず、不安でどうしようもない──。このような高所恐怖症に悩む方は多いです。
恐怖症治療の中でも高所恐怖症はよくある症状ですが、最新の治療法が登場し、従来の方法に比べて効率的かつアクセスしやすいものとして注目されています。
この記事では、最新の研究成果をもとに、VR(バーチャルリアリティ)と暴露療法(ET)を組み合わせた治療法をご紹介します。
VRによる自己指導型治療が可能に!「ZeroPhobia」の成功事例
最新の研究では、VRを使用した自己指導型の治療アプリ「ZeroPhobia」が注目されています。
このアプリは、ユーザーが仮想空間で高所に対面することで少しずつ恐怖を克服できる仕組みです。
アムステルダム自由大学臨床・神経・発達心理学科のジャン=ルイ・ヴァン・ゲルダー、フライブルク大学心理学科のアルバート・ルードヴィヒ博士らの行った研究(2020年)によると、このアプリを使用した高所恐怖症患者の多くが、VRセッションの繰り返しによって恐怖感が軽減されたことが示されています。
VRを用いた高所恐怖症治療の研究内容を簡単に解説
この研究には、オランダの成人96名が参加し、アプリを使った自己指導でVR暴露療法を体験しました。
アプリは、ユーザーがVR環境で自分のペースで進行できる複数のレベルを設け、毎回のセッションで徐々に難易度を高めることで、高所に対する恐怖を少しずつ克服させるプロセスを採用しました。
参加者はアプリを使って24分以上のVRセッションを実施し、セッションごとに恐怖を測定。結果として、セッションの開始と終了時点での自己申告による恐怖感が一貫して減少することが確認されました。
VR治療のメリット
通常の暴露療法と異なり、VRを利用することで高所環境を安全にシミュレーションできるため、実際に高い場所に行く必要がありません。
このように、自宅でセルフケアができるという点で、ZeroPhobiaのような自己指導型アプリが今後広く普及する可能性があります。
生理的フィードバックが治療をサポート
VR治療の次なる進化として、リアルタイムの生理的フィードバックを組み込んだ治療法も登場しています。
2022年のタイバ大学(サウジアラビア)の研究では、心拍数や脳波(EEG)、皮膚の電気伝導率などのデータをリアルタイムで取得し、患者の不安レベルに応じて治療の強度を自動調整する技術が開発されています。
これにより、患者は自分の不安レベルに適した高度の恐怖刺激を受け、より効果的に恐怖を克服できることがわかっています。
例えば、脳波や心拍数の上昇を検知すると、治療アプリが難易度を一時的に下げ、患者が不安感をコントロールできるようにする仕組みが採用されています。
このような生理的データと治療の連携は、患者の心理的な負担を軽減し、治療の成功率を高めると期待されています。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)との組み合わせでさらに効果的に
また、VR暴露療法と並行して「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」の技法を取り入れた新しいアプローチも効果的です。
ACTは、恐怖の感情や考えを受け入れることで、回避行動を減少させ、恐怖に立ち向かう力を高めることを目的としています。
トルコの研究(2020年)の研究では、VRを用いた高所恐怖症の治療におけるACTの効果が調べられました。
研究の結果、ACTとVRを統合することで、患者の不安感が有意に減少し、恐怖に対する耐性が向上することが示されました。
まとめ:高所恐怖症治療の未来は明るい
最新の研究に基づく治療法は、恐怖症克服の可能性を大きく広げています。VR技術の進化により、自己指導型の治療が可能となり、ACTや生理的フィードバックを組み合わせることで、さらに効果的な治療が期待されています。
高所恐怖症に悩んでいる方は、このような新しい治療法を検討する価値があるかもしれません。
参考論文
van Gelder JL, Emmelkamp PMG, de Vries M, et al. Efficacy of a self-guided virtual reality application for acrophobia treatment: A randomized controlled trial. J Clin Med. 2020 Mar;9(6):1614. doi: 10.3390/jcm9061614. PMID: 32519903.
https://doi.org/10.3390/jcm9061614
Donker, Tara, Chris van Klaveren, Ilja Cornelisz, Robin N. Kok, and Jean-Louis van Gelder. 2020. “Analysis of Usage Data from a Self-Guided App-Based Virtual Reality Cognitive Behavior Therapy for Acrophobia: A Randomized Controlled Trial” Journal of Clinical Medicine 9, no. 6: 1614.
Celik, Z., Alptekin, F. B., & Yavuz, K. F. (2020). Acrophobia treatment with virtual reality-assisted acceptance and commitment therapy: Two case reports. Düşünen Adam: Journal of Psychiatry and Neurological Sciences, 33(3), 317–324.