ドーパミンについて簡単解説
ドーパミンは、私たちの脳の報酬系システムに関与する重要な神経伝達物質です。
やる気や喜びをつかさどるホルモンとして有名なので聞いたことがある人も多いでしょう。
私たちが何か気持ちの良いと感じることを経験するとき、それはたいていドーパミンが介在する期待的または消費的な報酬が要因となっています。
ほかにも、受動的な良い気分は、別の神経伝達物質であるセロトニンによってより強く制御され、愛情やつながりなどの他者と関連した良い気分は、また別の神経伝達物質であるオキシトシンによってより強く制御されています。
つまり、人間の感じる幸せな気分にはドーパミン以外にも複数の神経物質が関与しているのですね。
今回はドーパミンが与える、期待報酬と消費報酬の心理について解説していきます。
期待報酬とは?
ドーパミンの機能の一つに期待報酬があります。
期待報酬とは、目標に向かって前進するときに得られる良い気分のことです。
目標を達成しようとするときの気持ちの方が、実際に達成したときの気持ちよりもワクワクすることがありますが、これが期待報酬です。
これにより、目標が達成できそうだ・達成に近づいていると感じられると私たちは興奮して楽しくなるのです。
目標が達成できなくなる
あるいは、こうした達成感を覚えたのも束の間、すぐに次の目標に移ってしまうこともあります。
目標を達成する前から次の新しい目標に心惹かれることで、幸せの追求のために選んだ目標が間違っていたのではないか?と思うかもしれません。
しかし、そうではありません。実はこの場合も、期待報酬が関係しています。
新しい目標ばかりに注意が行く理由
この現象を進化心理学の観点から見ると、脳は目標に向かって前進している間は良い感情でモチベーションを高めようとするあらゆる動機付けを持っています。
なぜなら目標を達成することでより良いものが手に入ったり成長したりして、生存と生殖に有利に働くようになるからです。
一方で、目標を達成した後は幸せな化学物質を放出し続けようとする動機付けはほとんど持っていません。
なぜなら幸せな状態に満足するよりも、より高みを目指すほうがより良いものが手に入り進化できるからです。
つまり、ドーパミンの観点から見れば、新たな目標に対する期待報酬の方が、現在の満足感よりも興奮できて楽しく感じられるのです。
消費報酬とは?
もうひとつ、ドーパミンには消費報酬という役割があります。
先ほどは目標を達成することよりもそれに向かうことにより気持ちが惹かれる心理があると言いました。
しかしだからと言って、決して目標を達成したときに気分が良くならないわけではありません。
むしろ、私たちの脳は目標達成や消費に対してもドーパミンの報酬を適切に与えてくれます。
例えば、カロリーの多く含んだ食べ物が美味しく感じられるのはそのためですし、買い物をして気分が良くなるのも同じ理屈です。
これが消費報酬です。簡単に言うと、目標を達成したり物を消費することで得られる喜びですね。
消費報酬の幸せは長続きしない
しかし、この報酬による気分の高揚は、期待報酬に比べて、短時間で終わってしまうという特性があります。消費による幸せは長続きしないのですね。
これにもまた、進化論的な理由が隠されています。
狩猟採集民時代、私たちはご飯を食べ終わった後でいつまでも幸せな気分に浸っているわけにはいきませんでした。
なぜなら現代とは異なり、食料や安全の確保をするためにやるべきことがあったからです。
例えば、ご飯を食べる幸せが丸一日続いたとしましょう。そのような人はきっと新しい食料を得るために努力することもなければ、一族を危険な動物から守るために立ち上がってまわりを警戒し続けることもなかったでしょう。
身体を動かさなくなると、ドーパミンやアドレナリンといったやる気にかかわる神経物質の分泌量が減って精神的機能が低下します。「最近何もやる気が起きない」のは、もしかすると運動不足が原因かもしれません。気を付け!
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) June 18, 2022
消費報酬より期待報酬が強い理由
消費報酬が短いほうが有利なのは現代でも同じです。
例えば、労働によって給料を得た喜びが長続きしてしまえば、一生懸命に働くことをしなくなり、仕事を失い、やがて貯金も尽きてしまうでしょう。
より良い社会と暮らしを目指そうとする意欲があるからこそ、新しいテクノロジーや問題解決の方法、スキルが生まれるのです。
というわけで、私たちは消費による喜びを短時間でサッと済ませ、期待による喜びをより感じるように進化してきました。
しかし、ドーパミンによるこうした報酬が問題を引き起こすことも多々あります。次回からはドーパミンが引き起こす問題を見ていきましょう。
参考論文
Wise RA, Robble MA. Dopamine and Addiction. Annu Rev Psychol. 2020 Jan 4;71:79-106. doi: 10.1146/annurev-psych-010418-103337. PMID: 31905114.
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Berridge KC. The debate over dopamine’s role in reward: the case for incentive salience. Psychopharmacology (Berl). 2007 Apr;191(3):391-431. doi: 10.1007/s00213-006-0578-x. Epub 2006 Oct 27. PMID: 17072591.
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Carlezon WA Jr, Thomas MJ. Biological substrates of reward and aversion: a nucleus accumbens activity hypothesis. Neuropharmacology. 2009;56 Suppl 1(Suppl 1):122-32. doi: 10.1016/j.neuropharm.2008.06.075. Epub 2008 Jul 15. PMID: 18675281; PMCID: PMC2635333.