結婚していても「離婚」を考えるのは異常なのか
多くの人は、結婚する時点では「この人と一生一緒にいるつもりだ」と考えています。しかし現実には、結婚生活の途中で離婚という言葉が頭をよぎる瞬間を経験する人は少なくありません。
この思考は、本人にとって強い罪悪感や不安を伴うことが多く、「こんなことを考える自分はおかしいのではないか」と自分を責めてしまう原因にもなります。
しかし、心理学と家族研究の分野で行われた大規模調査は、この感覚が決して特別なものではないことを示しています。
アメリカで行われた全国調査によると、25〜50歳の既婚者の半数以上が人生のどこかで一度は離婚を考えたことがあると回答しています。これは「離婚を考えること」自体が、現代の結婚生活において珍しい現象ではないことを意味します。
重要なのは、離婚を考えることと、実際に離婚することはまったく別の段階だという点です。思考と行動は必ずしも一致せず、多くの人は「考えた結果、離婚しない」という選択をしています。
注釈:心理学では、頭の中で可能性を想定する行為を「シミュレーション思考」と呼びます。これは失敗や危険を避けるために、人間が本能的に行う思考プロセスです。
研究で明らかになった「離婚を考える人」の実態
このテーマを体系的に調査したのが、2010年代に実施されたNational Divorce Decision-Making Projectです。この研究は、ブリガム・ヤング大学(Brigham Young University)のアラン・ホーキンス教授(Alan J. Hawkins)を中心に、ミネソタ大学、モンタナ州立大学、ミズーリ大学、アルバータ大学など複数の大学研究者が参加し、25〜50歳で結婚歴1年以上の約3,000人を対象に行われました。
この調査の最大の特徴は、「離婚したかどうか」ではなく、「離婚を考えたとき、人は何を感じ、何を考え、どのような行動を取ろうとしていたのか」に焦点を当てた点にあります。
研究チームはこの状態を離婚思考(divorce ideation)と名付け、質問紙調査と詳細なインタビューを組み合わせて分析しました。
その結果、直近6か月以内に離婚を考えたことがある人は、全体の約4人に1人にのぼることが分かりました。しかも、その多くは「頻繁に」ではなく、「たまに」考えた程度だと回答しています。
注釈:「離婚思考」は衝動的な感情とは異なり、ある程度の期間、頭の中で反復される思考を指します。一時的な怒りとは区別されます。
離婚を考えている人の本音は「別れたい」ではない
直感的には、離婚を考える人はすでに結婚生活を諦めているように思われがちです。しかし調査結果は、このイメージを大きく覆しています。
直近で離婚を考えた人のうち、本当に離婚したいと明確に考えていた人はわずか5%に過ぎませんでした。
一方で、「離婚は望んでいないが、結婚生活を立て直すために努力したい」と答えた人は43%、「配偶者が本気で変わるなら努力したい」と答えた人が23%に達しています。
つまり、多くの人にとって離婚思考とは、「終わらせるための思考」ではなく、どう続けるかを模索するための思考なのです。
注釈:心理学では、こうした思考を「問題解決志向の思考」と捉えます。現状を壊すためではなく、改善する可能性を探るために生じます。
「軽く考える人」と「深刻に考える人」の違い
研究チームは統計解析を用いて、離婚を考える人が一様ではないことを明らかにしました。分析の結果、離婚思考を持つ人は大きく2つのグループに分かれます。
一つ目はソフト・シンカー(soft thinkers)です。このグループは、直近6か月で離婚を考えた回数が少なく、結婚生活に対する希望も比較的高い傾向があります。問題は存在するものの、「すれ違い」「気持ちが冷めた感覚」「お金の使い方の違い」など、時間や対話によって改善可能な内容が中心です。
もう一つがシリアス・シンカー(serious thinkers)です。このグループは離婚を頻繁に考えており、不貞行為、依存症、精神的・身体的虐待といった深刻な問題を抱えている割合が高くなります。
ただし、このグループであっても、多くの人が「できれば離婚は避けたい」と感じている点は共通しています。
調査では、離婚を考えた人の約53%がソフト・シンカー、47%がシリアス・シンカーに分類されました。離婚思考は白黒ではなく、強度のグラデーションを持つ心理現象であることが分かります。
注釈:重要なのは「考えたかどうか」よりも、「どれくらいの頻度で、どの程度具体的に考えているか」です。
離婚思考は「行動」よりも「感情エネルギー」を消耗する
インタビュー調査から見えてきたのは、離婚を考えること自体が強い心理的負荷を伴うという事実です。多くの回答者は、法的手続きを進めていないにもかかわらず、「考え続けること」そのものによって大きな疲労を感じていました。
離婚思考は、決断に至らない宙ぶらりんな状態で長く続くことがあります。この状態は、不安、迷い、罪悪感を生み、主観的幸福感を低下させる要因になります。
一方で、この期間は「結婚生活をどう立て直すか」を模索する時間でもあります。
注釈:心理学では、決断できない状態が続くとストレスが増大することが知られています。これを「決定回避ストレス」と呼びます。
離婚を考えた過去を持つ人の多くは「残ってよかった」と感じている
調査では、過去に「結婚は深刻な危機にある」と感じた経験がある人にも質問が行われました。その結果、全体の28%が過去に強い危機感を抱いたことがあると回答しています。
注目すべきはその後の評価です。これらの人の約90%が「今振り返ると、離婚しなくてよかった」と答えています。「一緒にいることを後悔している」と答えた人は1%未満でした。
これは、結婚生活における困難が、必ずしも長期的な不幸につながるわけではないことを示しています。時間の経過や状況の変化によって、関係が改善するケースは少なくありません。
夫婦が問題を乗り越えたとき、実際にしていたこと
危機を乗り越えた人たちが「役に立った」と答えた要因で最も多かったのは、「時間が経つにつれて状況が改善した」というものでした。
これは問題を放置したという意味ではなく、感情の高ぶりが落ち着き、視野が広がった結果、問題の見え方が変わったことを意味します。
次に多かったのが、「結婚や家族を大切にしたいというコミットメント」でした。これは「好きかどうか」ではなく、「簡単には壊さないと決めている姿勢」を指します。カウンセリングを利用した人は全体の約4分の1でしたが、そのうち75%が「役に立った」と回答しています。
注釈:コミットメントとは感情ではなく「選択」です。気持ちが揺れても関係を維持しようとする意思決定を含みます。
離婚を考えたことがある人へ伝えたい現実的な視点
離婚思考は、多くの場合「危険信号」であると同時に「修正のチャンス」でもあります。考えてしまったこと自体を否定するのではなく、「なぜその考えが浮かんだのか」を冷静に見つめることが重要です。
研究が示しているのは、離婚を考えたからといって、必ず離婚に向かうわけではないという事実です。むしろ、多くの人は考えた末に結婚を続け、その選択を肯定しています。
記事のまとめ
結婚生活の中で離婚を考えることは、決して珍しいことでも、即座に否定すべきことでもありません。それは多くの場合、「関係を壊したい」という気持ちではなく、「このままでいいのか」と真剣に向き合おうとする心の動きです。
もし今、同じような思考に悩んでいるなら、自分だけが弱いわけでも異常なわけでもないという事実をまず知ってください。
焦って結論を出すのではなく、時間、対話、支援という選択肢を視野に入れることが、後悔の少ない判断につながる可能性があります。
参考論文
Hawkins, A. J., Willoughby, B. J., & Doherty, W. J. (2012). Thinking About Divorce: Why and How Married Individuals Decide to Stay or Go.
https://fatherhoodchannel.com/wp-content/uploads/2010/12/when-marriage-disappears.pdf
Scott SB, Rhoades GK, Stanley SM, Allen ES, Markman HJ. Reasons for Divorce and Recollections of Premarital Intervention: Implications for Improving Relationship Education. Couple Family Psychol. 2013 Jun;2(2):131-145. doi: 10.1037/a0032025. PMID: 24818068; PMCID: PMC4012696.











