人間が美しいものを重要視する理由
今回は、人間の魅力や求愛について研究しているウィーン大学の人類学教授であるカール・グラマー博士が解説する「人間が美しいものを求めてきた進化心理学的な理由」について紹介していきます。
地球上に存在するすべての動物・生物が持つルールでは、外見は繁殖能力の高さを表し、交尾をする相手の選択に大きな役割を果たしています。
人間でもこの2つのポイントは変わりません。私たちもほかの生物と同様に、繁殖能力の高さを示す美しい人たちに惹かれます。
この心理は幼少期からすでに確認できます。見た目の美しい子どもは、同じ悪さをしても、見た目の美しくない子どもよりも罰を受けない傾向があります。
また、赤ちゃんであっても、美しい人の顔をよりよく見ることがわかっています。
美しい人はそれだけ有利で優秀である
美しさに関する記述は3,000年前から確認できます。つまり、長い歴史の中で人類は美しさを大切にしてきたのです。
美しさの基準は、ファッションモデルが影響を与えることはあるかもしれませんが、それは非常に小さなスケールでの影響に過ぎません。
私たちは生物学的なルールというもっとも大きな枠組みにしたがって、美しいもの(人)を判断しています。
美しい人は、そうでない人よりも健康的です。これは過去の研究から繰り返し証明されている事実です。
魅力的な女性は、魅力的でない女性よりも、生涯にわたって多くの子供を産むことがわかっています。これは男性でも同じです。
美しさの基準はどこの国でも同じになる
また、人々が美しいと感じる顔や体の特徴は、文化や人種、年齢を問わず、驚くほど一致しているという研究結果もあります。
ある研究では、南アフリカとオーストリアの人々が、同じ日本人女性を魅力的な人物だと判断しました。
このようなことが起こるのは、私たちが生物学的な理由から美しさの基準を定めているからです。つまり、生き物の本能で美しい人に惹かれているのです。
では、どのような顔や体の特徴が魅力的だと判断されるのでしょうか。
外見的魅力を決める8つのルール
私たちは外見的な魅力を、「若さ」「対称性」「平均性」「性ホルモン」「体臭」「動作」「肌色」「髪質」という8つの美の柱を基準にして判断しています。
人間の美しさは、この8つのポイントが基本となっていることは間違いありません。この8つのルールは、人の魅力を決定するうえでの確実性の高い要素なのです。
8つのポイントが重要視される理由はまだそのすべてが判明しているわけではありませんが、わかっていることもいくつかあります。
美しい人がモテる理由
例えば、「対称性」は安定した発達や寄生虫への耐性を反映していると考えられ、体臭は免疫系の情報を伝えていると考えられています。
見た目の美しさはその人が心身ともに健康な証拠であり、健康は生物として長生きできる証拠です。だからこそ、美しい人はパートナーとして選ばれやすくなるのです。
しかし、これらの関連性を示す直接的な証拠はまだ乏しいままです。また、魅力の決定に関わる特定の遺伝子も、まだ特定されていません。
私たちは、美のシグナルは重複する傾向も持っています。たとえば、いい顔をしていれば、体臭もいい匂いがする。いい匂いがすれば、顔がより対称的になる。いい声をしていれば、いい顔になる、といった具合です。
人は睡眠不足になると、ネガティブになるし、不安になるし、イライラはするし、頭は悪くなるし、太るし、顔はブサイクになるし、老けるし、モテなくなるし、人に嫌われるし、無駄遣いはするし、寿命は短くなるし、幸せではなくなるし、眠いし、疲れるし、で最悪です。さあ、よく寝ましょ。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2021年9月6日
8つのルールは美しさの基本
美しさを決める8つの柱は、建物をつくる際の建設ルールのようなものです。
平均性や対称性などの建築ルールを守っていれば、そのほかの細かな部分で個性を出していても建物の安全性には問題がありません。
私たちの対人関係における好みがさまざまなものになるのはこのためです。結婚相手の候補者数を増やすためには、魅力は柔軟な概念でなければなりません。
美しさだけが恋人を決める唯一の決定要因でないのはこのためです。そうでなければ、この世は美しい人だけが結婚し、生き残っているはずですからね。
美しさは生物の基本であり、また重要なポイントなのは間違いありませんが、すべてではないのです。しかし、「最低限の清潔感を身につけること」は大切です。
それは例えるのなら、建築基準法を守るようなものなのですから。どんな建物をたてるにせよ、建物をたてるのなら、安全のためにも守らなくてはいけません。
参考論文
Grammer K, Sainani KL. Q&A: Karl Grammer. Innate attractions. Nature. 2015 Oct 8;526(7572):S11. doi: 10.1038/526S11a. PMID: 26444367.