- 最初の認知行動療法のセラピーで確認すること、気を付けること
- 認知行動療法の進め方
- セラピストと行う認知行動療法のステップ1、問題の特定
- セラピストと行う認知行動療法のステップ2、不正確な思考の特定
- セラピーを受ける期間の決め方
- 認知行動療法の効果を最大限に引き出すためにできること
- セラピーが役に立たない場合は?
- 参考論文
認知行動療法のセラピー
前回は「認知行動療法の治療効果とリスク」について解説してきましたが、今回は「セラピストと一緒に行う認知行動療法の流れ」について解説していきます。
認知行動療法の最初のセッションでは、セラピストがあなたについての情報を聞き取り、どのような問題に取り組みたいのかをあなたに尋ねます。
このときセラピストは、あなたの状況をより深く理解するために、現在と過去の身体的および感情的な健康状態について尋ねます。
また、あなたが薬などの他の治療法を受けることができるかどうかについても話します。
最初の認知行動療法のセラピーで確認すること、気を付けること
最初のセッションは、そのセラピストがあなたに合っているかどうかを確認するための機会でもあります。ここでは以下の点について確認してください。
- セラピストが進めていくアプローチ方法
- どのようなタイプのセラピーがあなたに適しているか
- あなたの治療の目標
- 各セッションの時間の長さ
- 治療まで何回のセラピーが必要か
どの心理テクニックをどのくらいの回数行っていくのかをチェックしておきましょう。その中で希望があればきちんと伝えておきます。
セラピストがあなたの状況や悩みを完全に理解し、最善の行動を決定するためには、数回のセッションが必要になる場合があります。
最初に会ったセラピストに馴染めない場合は、他のセラピストを試してみてください。セラピストとの相性が良ければ、認知行動療法の効果を最大限に引き出すことができます。
認知行動療法の進め方
セラピストは、あなたの考えや感情、悩んでいることを話すように促していきます。
このとき自分の気持ちを打ち明けるのが難しくても心配する必要はありません。セラピストは、あなたが自信と安心感を持って話せるように治療をサポートしてくれます。
セラピーの過程では、セラピストから宿題を求められることがあります。宿題とは、通常のセラピーセッションで学んだことを基にした活動、読書、練習のことで、学んだことを日常生活の中で応用していくものです。
セラピストのアプローチは、あなたの特定の状況や好みによって異なります。
また、セラピーでは、認知行動療法と他の治療法(例えば、対人関係に焦点を当てた対人関係療法など)を一緒に組み合わせることもあります。
セラピストと行う認知行動療法のステップ1、問題の特定
CBTには通常、次のようなステップを踏んで進んでいきます。
まず最初に自分の生活の中で困っている状況や状態を特定します。
例えば、病状、離婚、悲しみ、怒り、精神疾患の症状などが考えられます。それを踏まえてあなたとセラピストは、どのような問題や目標に焦点を当てたいのかを時間をかけて決めていきます。
セッションが進む中で、これらの問題に対する自分の考え、感情、信念にあなたは気づいていきます。それらが取り組むべき問題となります。
問題を特定したら、セラピストは、その問題に関するあなたの考えを話して共有するように促していきます。
これには、経験について自分に言い聞かせていること(セルフトーク)、状況の意味を解釈すること、自分や他の人、出来事についての信念を観察することが含まれます。
例えば、「雨の日には嫌なことが必ず起こる」「人に挨拶を無視されたら嫌われている証拠だ」「自分は幸せになってはいけない」といったことです。
また、治療を効果的に進めていくために、自分の考えを日記やメモに書くことを勧められるかもしれません。
セラピストと行う認知行動療法のステップ2、不正確な思考の特定
次に、否定的または不正確な思考を特定していきます。
問題の原因となっている可能性のある思考や行動のパターンを認識するために、セラピストは、さまざまな状況下でのあなたの身体的、感情的、行動的な反応に注意を払うように指示することがあります。
「人前と話すときはどんな気分ですか?」「緊張したら体はどんな反応を示していますか?」「イライラしたらよく何をしていますか?」といったことです。
そして、否定的で不正確な思考を別の視点から見るなどして再構築していきます。
不正確な思考を再構築していく(認知再構成)
セラピストは、ある状況に対するあなたの見方が、事実に基づいているのか、それとも不正確な認識(悪い思い込み)に基づいているのかを自問するように促します。
これは以前にも解説した、「認知再構成法」を用いたセラピーです。
例えば、「メールが返ってこない」という状況に対して「相手に嫌われた」と感じるのは、単なる事実か、それともあなたの考えなのかを判定します。
この場合、相手に直接「あなたが嫌い」と言われたわけではないので、これは考えです。メールが返ってこないのは忙しい、忘れていたなどの他の理由も考えられますからね。
固定された考え、自分の信念に気づく
このステップは難しいかもしれません。あなたは、自分の人生や自分自身について、長年続けてきて固定された考え方や信念を持っているかもしれないからです。
私たちは普段は気づいていませんが、「~すべきだ」「~してはいけない」といった思考パターンを持っています。
しかし、それらはただの考えや意見であって事実ではありません。
最初は難しいかもしれませんが、この練習を重ねることで、実生活に役立つ考え方や行動パターンが習慣化されていき、このステップも次第にそれほど苦労しなくなっていきます。
セラピーを受ける期間の決め方
認知行動療法は、一般的に、5回から20回程度の短期的に行われるセラピーです。
もちろん、セラピーが始まる前に、何回のセッションがあなたにとって適切かをセラピストと話し合うことができます。
セラピーの期間について考慮すべき点は以下の通りです。
- 障害の種類や状況
- 症状の重さ
- 症状が出てからの期間や、状況に対処してきた期間
- セラピーの進捗状況
- どの程度のストレスを感じているか
- 家族や他の人からどの程度のサポートを受けているか
これらのことを考慮に入れたうえでセラピーの期間が決まっていきます。途中で回数が変更になることもあるでしょう。
認知行動療法の効果を最大限に引き出すためにできること
認知行動療法はすべての人に同じように効果があるわけではありませんが、セラピーを最大限に活用し、成功させるためのポイントも存在しています。
- セラピストをパートナーとして捉える
- 正直に打ち明ける
- 計画を守る
- 結果を急がない
- セラピー外での宿題をこなす
順番に見ていきましょう。
セラピストをパートナーとして捉える
セラピストをあなたのパートナーとして捉えましょう。
専門家とのセラピーは、あなたが積極的に参加し、意思決定を相手と共有することで最も効果が出ます。
主要な問題とその対処法について、あなたとセラピストの二人が合意していることをセッションの中で確認しておいてください。
セラピストと一緒に目標を設定し、時間をかけて進捗状況を評価していくことが大切です。
正直に打ち明ける
セラピー中はセラピストに対してオープンで正直でありましょう。
セラピーがうまくいくかどうかは、あなたが自分の考えや感情、経験を積極的に共有し、新しい洞察力や方法を受け入れるかどうかにかかっています。
もし、辛い感情や恥ずかしさ、セラピストの反応が気になって、特定のことを話したくない場合は、セラピストにそのことを伝えてください。
計画を守る
セラピーには毎回出席し、治療の計画を守りましょう。
気分が落ち込んでいたり、やる気が出なかったりすると、つい治療をサボりたくなることがあります。
しかし、そのようなことをすると治療の進行が妨げられます。すべてのセッションに出席し、セラピストに何を話したいのかを考えてみましょう。
結果を急がない
セラピーが始まったからと言って、すぐに治療の結果が出るとは思わないでください。
感情的な問題に取り組むことは苦痛であり、しばしば努力を必要とします。
セラピーの初期段階では、過去や現在の葛藤に直面し、気分が悪くなることも珍しくありません。
改善が見られるようになるまで、何度かセッションを受ける必要があるかもしれませんので、それは理解しておきましょう。
セラピー外での宿題をこなす
セッションとセッションの間に宿題をしておきましょう。
セラピストから、通常のセラピーセッション以外に、読書や日記を書くなどの活動を求められたら、それに従います。
このような宿題をすることで、セラピーで学んだことを一人でも応用することができるようになっていきます。
セラピーが役に立たない場合は?
最後に、何回かセッションを受けても、セラピーが役に立っていなかったり効果が感じられない場合は、まずはそのことを正直にセラピストに相談してください。
いくつかの変更を加えたり、別のアプローチを試したりすることを決めるかもしれません。
それでも何も変わらない場合は、別のセラピストに相談してみましょう。
参考論文
Thomas A. Field, Eric T. Beeson, Laura K. Jones; The New ABCs: A Practitioner’s Guide to Neuroscience-Informed Cognitive-Behavior Therapy. Journal of Mental Health Counseling 1 July 2015; 37 (3): 206–220. doi:
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Gartlehner G, Wagner G, Matyas N, Titscher V, Greimel J, Lux L, Gaynes BN, Viswanathan M, Patel S, Lohr KN. Pharmacological and non-pharmacological treatments for major depressive disorder: review of systematic reviews. BMJ Open. 2017 Jun 14;7(6):e014912. doi: 10.1136/bmjopen-2016-014912. PMID: 28615268; PMCID: PMC5623437.
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What is Cognitive Behavioral Therapy?
https://www.apa.org/ptsd-guideline/patients-and-families/cognitive-behavioral